「歯車」は芥川龍之介の晩年の作品です。タイトルの歯車は、片頭痛の前兆として視界に現れる症状の描写であり、芥川龍之介自身が片頭痛を患っていたのは有名な話です。
「歯車」は、1927年に芥川龍之介が服毒自殺する数ヶ月前に作られた作品のようです。レエン・コオト(レインコート)から、始まる小説ですが、読んでいると、昭和初期に時代がさかのぼり、何だか不気味な世界に浸っていきます。さらに不吉な印象が駆けめぐり最後はドキッとする終わりになります。主人公は時々、視界に歯車が見える前兆が起こったのち、その後ひどい頭痛に悩まされる発作を生じています。まさに「典型的前兆を伴う片頭痛」です。芥川龍之介は、晩年精神が不安定であったようでこの小説にも心象風景として表れていますが、片頭痛の描写がさらに不吉な印象を濃くして小説の終わりを迎えます。
当時、片頭痛に関して現在のように医学的には全く解明されていません。今では通常医療となってるトリプタンという片頭痛の特効薬はありませんし、ましてや今から話題になっていく新薬、片頭痛の原因物質とされるCGRPに対して直接効果をもたらす抗CGRP抗体、抗CGRP受容体抗体の薬(エムガルティ、アジョビ、アイモビーグと3つの新薬が登場しています)などありません。もし芥川龍之介が存命の時、これらの薬があれば、「歯車」は全く違った作品になっていただろうなと思います。