頭痛外来を行っています
(日本脳神経外科専門医、日本頭痛学会専門医など取得あり)
片頭痛について是非ご相談ください
片頭痛の原因と考えられているタンパク質「CGRP」
片頭痛の原因として、近年の研究で、痛みの神経である三叉神経から放出されるCGRPというタンパク質が関係しているとする「三叉神経血管説」が最も有力です。CGRPは、カルシトニン遺伝子関連ペプチドCalcitonin Gene-Related Peptideの頭文字を取っています。
なんらかの刺激によって、三叉神経から脳の表面にある硬膜に向かってCGRPが放出され、CGRPを受け取った硬膜が炎症を起こします。そのため、脳が痛みを感じたり悪心を感じて嘔吐したり、また眠気を感じたりすると説明されています。
片頭痛のこれまでの治療薬
以下の2種類に分けられます。
頭痛を生じたときに使用する、片頭痛の特効薬であるトリプタンや他の鎮痛薬など
2000年以降にトリプタンが発売され、当時は片頭痛治療においてブレイクスルーとなりました。現在まで5種類が発売されています。三叉神経からCGRPの放出を抑制する作用がありますので、片頭痛発作には効果があります。しかしCGRPが放出されるそのときに主に効果を表しますので、トリプタンを内服するタイミングが難しいことも多く、トリプタンそのものの効果が弱い方もいます。
頭痛の頻度を減らすための予防薬
片頭痛の病態とは関係のない他の病気の治療薬(抗てんかん薬、抗うつ薬、血管作動薬など)が片頭痛予防に有効とされ使用されています。しかし効果発現まで時間がかかったり、副作用があったり、さらにはやはり片頭痛の病態生理に基づいた薬でないために効果が限定的なこともあります。
新たな片頭痛の治療薬(注射剤)
片頭痛治療の新たな予防薬です。片頭痛の原因物質と考えられるCGRPを無力化することで炎症を抑え、劇的な治療効果をもたらす新しい片頭痛の注射剤が2021年4月以降3剤発売されています。1ヶ月に1回注射を行うことで劇的な治療効果を認め、片頭痛治療のパラダイムシフトとなっています。片頭痛発作の頻度を減少させることは元より、片頭痛を生じていない時にも効果を認め、とても快適な日常生活を送ることができるようになったとの声がたくさん届けられています。
商品名
エムガルティ:皮下注射を初回2本、その後1か月間隔1本ずつ
アジョビ:皮下注射を4週間隔1本ずつ、または12週間隔3本ずつ
アイモビーグ:皮下注射を4週間隔1本ずつ
これらの薬の使用方法を定めた、厚生労働省の最適使用ガイドラインがあります。当院でも以下を遵守して治療を進めています。
・片頭痛の発作が月に複数回以上で出ていることを医師が確認していること。
・片頭痛が過去 3ヶ月以上にわたり、平均して1ヶ月に4回以上起きている。
・従来の片頭痛予防薬の効果は不十分、または副作用により継続が困難である。
・生活面の改善や片頭痛発作の治療をすでに行なっているが、それでも日常生活に支障がある。
さらに2022年にはトリプタンの次世代型の内服薬であるレイボー(ラスミジタン)も発売されました。今後も新薬や新しい治療が国内でも登場すると思われます。
頭痛について
頭痛は、普段から起こる頭痛(一次性頭痛)と何かの病気があることで起こる頭痛(二次性頭痛)に大きく分けられます。
一次性頭痛には、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などが分類されます。一次性頭痛は、命とは関わりありませんが、痛みが起こると生活に支障を及ぼすこともありうまく付き合っていくことが必要です。二次性頭痛には、こわい病気が原因のことも多いので、速やかに適切な精査をおこなうことが必要です。
まず、以下のような頭痛の時には注意が必要です。
※慢性頭痛の診療ガイドラインより抜粋しています。
□突然の頭痛
□今までに経験したことがない頭痛
□いつもと様子が異なる頭痛
□頻度と程度が増していく頭痛
□50歳以降に初発の頭痛
□神経脱落症状(手足の脱力・しびれ、目の見えにくさなど)を有する頭痛
□癌や免疫不全の病態を有する頭痛
□精神症状を有する頭痛
□発熱・項部硬直・髄膜刺激症状(首が固くなるなど)を有する頭痛
片頭痛(一次性頭痛)
片頭痛(前兆のない片頭痛、前兆のある片頭痛)
片頭痛は、片側の頭が痛むことに由来しますが、両側の頭が痛むこともしばしばあります。有病率は8.4%、思春期から40歳代の女性に多いことが知られています。脈打つようにズキンズキンと痛み、体を動かすと頭痛がひどくなります。光がまぶしくかったり、音やにおいが気になったり、また吐き気や嘔吐を伴うことも多いです。このような症状が4時間から72時間続くことも知られ、生活に支障がある方もたくさんいます。
片頭痛は、前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛に大きく分けられます。前兆のない片頭痛の方が頻度は多いです(70〜80%)。前兆がある片頭痛の方で、最も頻度の高い前兆は、目の前がギザギザ、キラキラした光が見えたり、視野の一部が見えづらくなったりする症状です。前兆は数分から60分以内で収まり、その後頭痛が始まります。
治療としては、生活習慣の改善とともに、片頭痛が起こった時、片頭痛の特効薬などを用いて、なるだけ速く痛みをなくし通常の日常生活に速く回復させる治療を目指します。また片頭痛がひどい方は、普段から予防療法を行うことで、片頭痛の回数をなるだけ減らし、起こっても軽い痛みですむようにします。
慢性片頭痛
片頭痛の発作がときどきしか起こっていなかったのに、慢性化することがあります。その時には前述のような片頭痛の症状でない頭痛が毎日のように起こるようになり、それを慢性片頭痛といいます。月に15日以上の頭痛が起こり、そのうち月に8日以上は片頭痛の特徴を示すことが診断基準となります。痛み止めをたくさん飲み過ぎてしまうことも慢性片頭痛に関係しているといわれます(後述の薬剤の使用過多による頭痛を参照ください)。連日の頭痛を確認するために頭痛ダイアリーを用いて、生活習慣の改善、薬剤使用の見直しを行っていきます。
片頭痛に似ている頭痛
救急疾患となる頭痛(二次性頭痛)
くも膜下出血や脳動脈解離
くも膜下出血は命の関わる重篤な病気です。その多くの原因は、もともと頭蓋内に存在していた脳動脈瘤が破裂することで生じます。多くは、発症時に突然の激しい頭痛を呈します。しかし、時に、典型的でない頭痛、程度の軽い頭痛のこともあります。速やかに精査を行い、適切な治療を受けることが必要です。
脳動脈解離は血管壁(内膜、中膜、外膜の三層で構成されます)が、血液の流れている内腔側から裂けてしまう病気です。内腔側の内膜から裂けて中膜でとどまることもありますし、内膜から中膜を超えて外膜までそして血管外まで裂けてしまうこともあります。多くは強い後頚部痛を呈しますが、頭痛の程度が軽度のこともあります。脳梗塞やくも膜下出血を伴うことがあり、速やかに精査を行い、適切な治療を受けることが必要です。
髄膜炎や脳膿瘍
頭蓋内の感染症です。感染が強い時期には、拍動性の強い頭痛を生じます。そのほか発熱、項部硬直(後頚部が固くなります)、意識障害を伴うことがあります。速やかに精査を行い、適切な治療を受けることが必要です。
脳静脈血栓症
大きな脳静脈や脳静脈洞が血栓によって閉塞し脳の循環が障害される病気です。頭痛、けいれん、意識障害などを呈し、脳出血などを伴うこともあります。比較的まれな病気ではありますが、命に関わることもあります。速やかに精査を行い、適切な治療を受けることが必要です。
脳腫瘍
脳腫瘍の存在する場所、大きさなどによって、さまざまな部位で一様でない頭痛を伴います。早朝に頭痛が増強しやすいことが昔から言われてきましたが、一概には言えません。脳腫瘍が存在する場所、また脳腫瘍の大きさなどから、神経症状(手足の脱力・しびれ、目の見えづらさなど)も様々で、そのほかけいれんや意識障害を呈することもあります。
群発頭痛などの三叉神経・自律神経性頭痛(一次性頭痛)
群発頭痛などの三叉神経・自律神経性頭痛 (Trigeminal autonomic cephalalgias (TACs))は、典型的には一側性の眼窩部、眼窩上部、側頭部に1〜2時間持続する激痛の発作が連日1〜2回/日、1〜2か月間生じます。頭痛発作が起こる期間を群発期と呼び、通常毎年同じころに生じます。頭痛発作と同時に三叉神経(痛みの原因となる神経)の活性化に伴って、頭部の副交感神経系が興奮し、同側に頭部の自律神経症状が出現します。流涙・鼻漏・結膜充血・鼻閉などを伴います。そのほか落ち着かない感じになるのも特徴です。悪心・嘔吐、音・光過敏などを伴うこともあり片頭痛と間違われることもしばしばあります。群発頭痛以外のTACsでは発作時間や頻度が異なってきます。数秒のこともありますし、数か月持続することもあります。
薬剤の使用過多による頭痛
薬剤の使用過多による頭痛 (薬物乱用頭痛Medication-overuse headache (MOH))は、文字通り薬剤(痛み止め)をたくさん内服してしまうことで生じる頭痛です。もともと一次性頭痛(片頭痛や緊張型頭痛など)を持つ方が1か月に15日以上頭痛があり、3か月を超えて急性期治療薬を定期的に月に10日(複合薬剤である痛み止めなど)、もしくは15日(複合薬剤ではない痛み止め)以上使用している場合にMOHと診断されます。MOHの原疾患の多くは片頭痛であり、MOHが片頭痛の慢性化をもたらしてしまいます。片頭痛発作頻度が増加したり、片頭痛発作の持続時間が長くなったり、緊張型頭痛が加わり頭痛が増悪したり、頭痛発作に対しての不安感などがMOHに陥ってしまうきっかけとなることが知られています。生活習慣の改善、そして薬剤使用の見直しなどが重要となります。
緊張型頭痛(一次性頭痛)
頭痛の原因として最も頻度が高いのが緊張型頭痛です。いわばごく普通にある頭痛です。有病率は22.4%で、片頭痛(有病率8.4%)の約3倍、生涯の有病率は80%以上あるともいわれています。長時間の同じ体勢や無理な姿勢によって肩や首の筋肉に負担がかかったり、精神的緊張によって筋肉の緊張が高まることで生じます。筋肉の痛みが続くと慢性化することもあります。また痛みを感じやすくなることで、痛みをより強く感じたり、広い範囲で痛みを感じることもあります。
小児の頭痛
小児にも片頭痛、緊張型頭痛は起こります。常に成長、発達している小児の特性と関連しているため、成人とは少し異なることがあります。成熟途中の小児では葛藤、ストレスが身体化しやすく、強い痛みの記憶が持続するなどの特徴を持っています。小児特有には、起立性調節障害という自律神経症状によって起こる頭痛も存在します。小児科の先生と連携しながら、生活環境の改善や心身面のサポートなどが頭痛改善に重要となります。その他、成人と同様に、副鼻腔炎(後述)による頭痛も頻度が高いです。
小児の片頭痛
中学生で4.8%(男3.3%、女6.5%)、高校生で15.6%(男13.7%、女17.5%)の有病率であるという報告があります。なお、緊張型頭痛では高校生で26.8%(男23.0%、女30.6%)と片頭痛より高い有病率です。成人であれば頭痛の時間が4~72時間持続しますが、小児では1~72時間と短い持続時間のこともあります。頭痛の特徴は、両側の前頭側頭部であることが多く、成人に多い片側性の頭痛は、思春期の終わりや成人期の初めに移行することが多いです。ただし、両側性であっても片頭痛様の後頭部の頭痛は稀で、頭痛を生じるほかの原因があることが多いのでCT、MRIをはじめとした検査が必要です。
小児の片頭痛の治療
第一に誘因となるものがないかを考えます。生活習慣を見直し、避けることができることあれば避けます。さらに生活支障度が高い場合には薬物治療が必要になります。小児に推奨される薬もあります。また頭痛の頻度や程度が強い場合には、成人と同様に頭痛の予防薬を使用します。
小児期に片頭痛に移行することが多いとされる、片頭痛と関連した疾患
周期性嘔吐症
1時間~5日間続く、強い悪心と嘔吐の周期性発作があります。自然寛解し、発作がないときは無症状です。片頭痛に関連する症状と似ています。
腹部片頭痛
1~72時間持続する腹痛発作があります。腹痛は、鈍痛であったり、漠然としたものです。食欲不振、悪心、嘔吐、顔面蒼白などを伴います。大部分は後年になって片頭痛を発症するといわれています。
小児良性発作性めまい
前触れなく回転性めまいを生じて、数分~数時間で自然軽快します。片側性の拍動性の頭痛をめまい発作に伴うこともあります。
小児の二次性頭痛
頭痛における二次性頭痛の割合は42.9%という報告があります。原因として、1位が感染症30.9%(ウイルス性疾患、副鼻腔炎)、2位が頭部外傷5.1%と頻度が高いです。これらの場合、CTやMRIの検査が必要です。
起立性調節障害による頭痛
起立性調節障害(下記の基準を参照ください)の有病率は一般中学生の15~25%前後、一般高校生の15~30%前後とされています。そのうち50%の方が頭痛を合併しているといわれています。起立性調節障害は小児・思春期の頭痛の共存症として重要であり、頭痛の慢性化、難治化の要因の一つとなっています。起立性調節障害によって引き起こされた頭痛(二次性頭痛)であれば、まず起立性調節障害の治療を行うことが必要となりますので、小児科などの先生に関わってもらうことが重要です。そのほか、起立性調節障害に共存する一次性頭痛(片頭痛や緊張型頭痛)や二次性頭痛(副鼻腔炎など)のこともあり、起立性調節障害に伴う頭痛は複雑なことがしばしばあります。起立性調節障害に共存する頭痛であれば、それぞれに応じた治療が必要になります。
起立性調節障害の旧診断基準
大症状
□立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
□立っていると気持ち悪くなる
□入浴時あるいはいやなことを見聞すると気持ちが悪くなる
□少し動くと動悸あるいは息切れがする
□朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
小症状
□顔色が悪い
□食欲不振
□臍疝痛をときどき訴える
□倦怠あるいは疲れやすい
□頭痛をしばしば訴える
□乗り物に酔いやすい
□起立試験で脈拍狭小化 16mmHg以上
□同収縮期血圧低下 21mmH以上
□同立位心電図TⅡの0.2mV以上の減高
以上の症状で、大症状が3つ以上、もしくは大症状が2つと小症状が1つ、もしくは大症状が1つと小症状が3つ以上あてはまり、器質的疾患を除外されると、起立性調節障害の診断となります。
その他の頭痛
副鼻腔炎
急性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎による頭痛は高頻度で起こります。膿性の鼻漏、後鼻漏(鼻の奥)、鼻閉、咳嗽などの鼻症状を伴います。副鼻腔炎の場所により、前頭部や鼻根部、上顎部、後頭部・頭頂部など痛みの場所は様々で、圧迫感から鈍痛を生じることが多いです。
脳脊髄液減少症
脳脊髄液の減少により起立性に起こる頭痛を特徴とします。そのほかにも頚部痛、背部痛、めまい、聴覚症状、資格症状、倦怠感などさまざまな症状を呈します。原因も軽微な外傷、スポーツ、交通外傷など様々です。
気になる症状がある方は、MRI・CTによる精密検査をオススメします。